【連載:ゼロから小説をKindle出版した全工程|第5回・最終回】
いよいよ最終回です。原稿が仕上がったら、最後は「Kindleで正しく読める形式」に整える工程。ここは連載で一番テクニカルな回ですが、つまずきポイントは限られているので、要点を押さえれば大丈夫です。とくに多くの人がハマる「ナビゲーション可能な目次」の作り方を中心に、具体的な手順を紹介します。
なぜ「目次」でつまずくのか

KDPに原稿を入稿する形式はいくつかありますが、Wordの.docxファイルで入稿する人が多いと思います。私もそうでした。このとき、多くの人がつまずくのが目次です。
誤解しやすいのですが、本文に「目次」というページを作って、章タイトルを手で並べただけでは、Kindleの”ナビゲーション目次”にはなりません。読者がKindle端末のメニューから各章へジャンプできる目次は、見た目のページとは別の仕組みで作られているからです。ここを理解していないと、「目次は作ったのに、端末から章に飛べない」という状態になります。
2種類の目次がある
Kindleの目次には、性質の違う2種類があります。これを区別するのが第一歩です。
- 本文中の目次(HTML目次):本の最初のほうに表示される、リンク付きの目次ページ。読者が見て、タップすると各章へ飛ぶ。
- ナビゲーション目次(論理目次):Kindle端末やアプリの「メニュー」から呼び出せる目次。ページとしては見えないが、どこを読んでいても各章へジャンプできる。
読書体験を左右するのは、とくに後者です。これがないと、長い本で「前の章に戻りたい」というときに延々スワイプする羽目になる。完成度の高い電子書籍にするには、この論理目次をきちんと作り込む必要があります。
カギは「見出しスタイル」
ナビゲーション目次を作るうえで、最も大事な原則がこれです。章タイトルを、ただ文字を大きくしただけのテキストにしない。Wordの「見出しスタイル(見出し1、見出し2など)」を適用する。
KindleはこのWordの見出しスタイルを読み取って、章の区切りを認識します。つまり、各章のタイトルに「見出し1」を適用しておけば、変換時にそれが論理目次の項目になる。逆に、見た目だけ大きくした”ただの太字テキスト”は、章として認識されません。フォントサイズを手で大きくしただけ、という作り方が、目次トラブルの最大の原因です。
手順としては、全章のタイトルに漏れなく見出しスタイルを適用していくことになります。連作短編だと章(話)の数が多いので、ここを一つずつ手作業でやると抜けやミスが出やすい。私はこの「全章への見出しスタイル適用」と整形作業を、.docxの中身(XML)を直接処理する方法で機械的に行いました。手作業に頼らず一括で整えることで、抜けや表記の不揃いを防げます。
.docxを「中身から」整えるという発想
少し踏み込んだ話をします。.docxファイルは、実は中身がXML(構造化されたテキスト)でできた圧縮ファイルです。Wordの画面で1か所ずつ直す代わりに、この中身を直接プログラムで処理すれば、「全章に見出しスタイルを当てる」「不要な書式を一括で取り除く」といった整形を、機械的かつ確実に行えます。
もちろん、Wordの画面上で一章ずつ見出しスタイルを適用していく方法でも、最終的なゴールは同じです。章数が少なければ手作業でまったく問題ありません。ただ、章数が多い・表記を完全に揃えたい・同じ作業を次の本でも繰り返したい、という場合は、中身(XML)から整える発想を持っておくと、作業がぐっと安定します。ここは「こういうアプローチもある」という紹介にとどめますが、興味のある方は「docx XML 編集」あたりで調べてみてください。
入稿前のチェックリスト
原稿の整形が終わったら、入稿前に次を確認しました。ここを通せば、大きな事故はだいたい防げます。
- 全章のタイトルに見出しスタイルが当たっているか——論理目次の根幹。
- 章の途中で改ページが入っているか——各章が前のページの続きから始まらないように。
- 見出しスタイルを目次以外の場所に誤用していないか——本文の途中に見出しが混ざると、目次に余計な項目が出る。
- 不要な書式や空段落が残っていないか——コピペ由来の見えない書式は、変換時に崩れの原因になる。
- プレビューで実機表示を確認する——KDPの出版プロセスにはプレビュー機能があるので、実際に各章へジャンプできるか必ず試す。
とくに最後のプレビュー確認は必須です。手元のWordで完璧に見えても、Kindle形式に変換すると見え方が変わることがあります。「目次から各章に飛べるか」を、自分の目で一度確認してから公開ボタンを押す。これで安心して出せます。
そして「公開」へ
形式が整えば、あとはKDPの管理画面に沿ってタイトル・著者名・紹介文・価格などを入力し、原稿と表紙をアップロードして公開するだけです。ここまで来れば、技術的な山は越えています。
全5回を通して紹介してきたのは、「売れるスキルがない」と止まっていた私が、好きなものを起点に一冊を書き上げ、Kindleで出版するまでの全工程でした。テーマの選び方、キャラクター設計書、伏線の配置図、推敲・校正、そして今回の入稿フォーマット。一つずつ通していけば、特別な才能がなくても、本は完成します。
そして最初にお伝えした通り、私の一冊目の本当のゴールは「売上」ではなく「この工程を一度自分の手で通すこと」でした。それは確実に達成できて、いまこうして次の本のための土台になっています。これから始める方にとって、この連載が最初の一歩の支えになればうれしいです。
この連載で工程の題材にしたのが、私が実際にこの手順で出版した連作ミステリー『顔のない探偵へ──倉田修二の事件帖』です。フードデリバリーと介護の仕事をしながら、匿名のSNS探偵として9つの謎を解いていく54歳の男の物語——ここまで読んでくださったお礼に、ぜひ”完成形”を覗いてみてください。


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