【連載:ゼロから小説をKindle出版した全工程|第2回】
前回は、原稿を書く前の「何から始めるか」という考え方の話をしました。今回からは具体的な手法に入ります。テーマが決まったあと、私が原稿より先に作ったもの——それがキャラクター設計書です。登場人物を行き当たりばったりで出すのではなく、書き始める前に「設計」として固めておく。これをやっておくと、執筆中に人物がブレず、しかも勝手に動いてくれるようになります。

なぜ「設計書」が必要なのか
キャラクターを頭の中だけで持っていると、書いているうちに性格が揺れます。1話では無口だった人物が、5話ではやけに饒舌になっていたり。とくに連作短編のように話数が多い形式では、この”ブレ”が積み重なって、読者に「この人、どういう人だっけ?」という違和感を残します。
設計書は、その揺れを防ぐ「基準点」です。迷ったとき、ここに立ち返れば人物が元に戻る。さらに、書く前にしっかり作り込んでおくと、いざ書き始めたときに「この状況でこの人なら、こう言うはずだ」と人物のほうが先に動いてくれます。設計に時間をかけるほど、執筆そのものは楽になります。
設計書に入れた項目
私が実際に各キャラクターについて埋めた項目は、おおむね次の通りです。これをテンプレートとして、登場人物全員ぶん用意しました。
- 基本情報:年齢・性別・役割・主人公との関係
- 性格:行動原理。どういう価値観で動くか
- 外見:読者が絵を結べる程度の具体描写
- 口調・話し方の特徴:地の文と会話文の”声”
- 長所と短所:必ずセットで。短所が物語を動かす
- 秘密と葛藤:その人物が抱えて隠しているもの
- 物語の中での変化:最初と最後でどう変わるか
- 物語に必要な理由:この人物がいないと何が成立しないか
この中でも、効きが大きかった項目を3つ掘り下げます。
効く項目①「口調・話し方の特徴」
会話文の”声”を最初に決めておくと、複数の人物が出てくる場面でも、誰がしゃべっているか名前を書かなくても伝わるようになります。たとえば私の主人公は「感情的になるほど文が短くなる」と決めました。逆に若い相棒役は「テンポが速く、体言止めとスラングを多用。ただし重要な場面では急に丁寧になる」。このギャップ自体が、その人物の感情の振れ幅を表現してくれます。
口調を設計段階で言語化しておくと、執筆中に「この台詞、この人っぽくないな」という判定がすぐできます。声が決まっていれば、人物は半分できたようなものです。
効く項目②「長所と短所をセットにする」
短所は欠点ではなく、物語のエンジンです。私の主人公には「他人の嘘は見抜くのに、自分のことになると途端に鈍くなる」という非対称性を持たせました。他人には踏み込めるのに、自分には踏み込めない。この短所があるからこそ、物語が進む——他人の謎は解けるのに、自分の人生の問題はずっと棚上げになっている、という構造が生まれます。
長所だけのキャラクターは動きません。短所こそが葛藤を生み、葛藤が物語を前に進めます。設計書では、長所と短所を必ずセットで、できれば「同じ性質の裏表」になるように書くのがコツです。
効く項目③「物語に必要な理由」
これは自分への問いです。「この人物がいなかったら、何が成立しなくなるか?」に答えられないキャラクターは、たいてい削れます。逆に、ここがはっきり書ける人物は、物語の中で確かな役割を持ちます。
私は登場人物を機能で整理する表も作りました。「感情移入を担う人」「安心感を担う人」「対立・緊張を担う人」「余韻を担う人」——役割が偏っていないか、誰かと機能がかぶっていないかを、設計の段階で点検するためです。脇役一人ひとりにまで「必要な理由」を割り振っておくと、群像が散らからずにまとまります。
人物相関図で「つながり」を可視化する
個々の設計書に加えて、私は簡単な人物相関図も作りました。誰と誰が血縁か、誰と誰が対立しているか、関係を線でつないだだけのものです。テキストの簡易図で十分でした。
これがあると、話を書きながら「この二人を、この話で交差させるとどうなるか」というアイデアが湧きやすくなります。とくに連作では、人物どうしの関係が後半で効いてくる設計が肝になるので、相関図は早めに作っておくと得をします。
まとめ:設計に時間を使うと、執筆が楽になる
キャラクター設計書は、面倒に見えて、実は執筆を一番ラクにしてくれる工程です。声・短所・必要な理由の3点だけでも先に固めておけば、人物がブレず、勝手に動き、群像が散らからない。書き始めてから悩む時間が、確実に減ります。
次回(第3回)は、連作短編ならではの難所——伏線をどう管理するかの話です。複数の話にまたがる伏線を、私がどんな”配置図”で管理して、一本の糸につないでいったかを紹介します。
この連載で題材にしているのは、私が実際に出版した連作ミステリー『顔のない探偵へ──倉田修二の事件帖』です。ここで紹介した設計書から生まれた登場人物たちが、夜の街でどう動くのか——本編で会ってもらえたらうれしいです。


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