3か月前に、SNSのDMで届く「新しい副業」の勧誘をどう見分けるか、という記事を書きました。今日はその続編です。
結論から書きます。判断の基準は、前回から変えていません。変わったのは入口のほうです。2026年上半期の公表資料を読むと、いちばん多い入口はもう「知らない人から届くDM」ではありませんでした。自分でタップした広告です。
つまり「知らない人からのDMは開かない」という自衛だけでは、もう入口を塞ぎきれていません。今日はそこを書きます。
前回書いたことは、3行で済みます

前回の記事で置いた基準は3つでした。自分の人間関係を消費しないか。自分が手を止めても顧客が困らない仕組みか。勧誘しなくても収益が立つか。看板が「新しいモデル」でも、収益の源泉が自分の人脈にあるなら、構造は変わらないという話です。
この3つは、いまもそのまま使っています。ただ、あの記事は「知らない人からDMが来る」という場面から始まっていました。その前提のほうが、1年経たないうちに古くなりました。
前回の記事はこちらです。SNSで来る「新しい副業」勧誘の見抜き方|50代の判断基準
2026年、いちばん多い入口は「バナー等の広告」でした
警察庁が2026年7月31日に公表した、令和8年上半期の特殊詐欺に関する資料(暫定値)があります。
全体の数字はこうです。認知件数は22,031件で、前年の同じ時期より3,408件、18.3パーセント増えています。被害額は1,816.2億円で、618.8億円、51.7パーセントの増加。1日あたりにならすと10.0億円です。
その中に、SNS型投資詐欺という項目があります。被害額は797.9億円で、前年同期から444.9億円の増加。認知件数は5,893件で3,020件の増加。既遂1件あたりの被害額は1,362.5万円と書かれています。
そして、この記事でいちばん言いたいのがここです。当初の接触手段は「バナー等広告」が最も多く、被害額でみると前年同期比252.5パーセント増でした。当初の接触ツールは、被害額ではInstagramとX(旧Twitter)が増加傾向、認知件数ではInstagram、X、Facebookが増加傾向とされています。
DMを無視するという自衛策は、DMが入口だった時代の対策です。いまいちばん多い入口は、自分の指でタップした広告のほうでした。
広告が見抜きにくいのは、こちらが探していた側だからです
一般に、SNSの広告は閲覧履歴や関心に応じて表示される仕組みとされています。ですから、副業やお金の情報をよく見ている人ほど、その種の広告に接しやすくなる可能性があります。
ここが厄介なところだと思っています。DMは「知らない人から来た」ものです。警戒の姿勢が最初からできています。広告は違います。「自分が探していたものが、向こうから出てきた」という感触になります。勧誘されている自覚が持ちにくい。
正直に書くと、自分もここは強くありません。この数か月、知らない人からのDMは1件も届いていません。代わりに指が止まるのは、広告のほうです。効いたのは2つでした。「AIを使えばこれだけ稼げる」と「Pinterestを使えばこんなに稼げる」です。
厄介なのは、自分がその2つを実際にやっていることです。AIは毎日使っていますし、Pinterestにも投稿しています。だから「知らない世界の話」として弾けません。自分がいま手をつけていることの、少し先の景色を見せられている感じになります。心が動いたのは、嘘くさかったからではなく、半分は本当に見えたからでした。
ただ、指を止めて考えると、その金額を自分が再現できるかどうかは別の話です。うまくいっている人がいることと、自分が同じようにできることのあいだには、ずいぶん距離があります。動いたのは判断力ではなく、疲れと期待のほうでした。この記事は、自分は絶対に引っかからない人間が書いているものではありません。
自分も、説明会に9時間46分いました
書いておかないとフェアではないことが、もうひとつあります。
新しい手口への警戒を書いた記事と同じ週に、自分はある副業の説明会に、合わせて9時間46分を使っていました。気をつけましょうと書いている人間が、同じ週にその席に座っていたわけです。
言い訳をすると格好がつかないので、そのまま書きます。断りきれなかったのではありません。自分でも、少し期待していました。断るための基準は3つ、自分で書いて持っていたのに、席には座っていたのです。
ここで分かったことがあります。基準を持っていることと、基準を使うことは、別の技術です。 持っているだけでは、期待しているときに取り出せません。だから自分は、そのあと判断を手順のほうへ移しました。この記事の後半は、その手順の話です。
「若い人が引っかかる話」ではありませんでした
同じ資料に、もうひとつ気になる記述があります。特殊詐欺の被害額でみると、50代以上が占める割合が約8割。年代別では、被害額も認知件数も60代が最も多い、というものです。
自分の年代は「引っかかる側」として集計されています。責めるために書いているのではありません。むしろ逆で、判断力の問題として片づけないほうがいい、と思っています。ある程度まとまったお金を動かせる立場にいて、自分ひとりで決められて、しかも人に相談しにくい。その3つが重なる年代だから数字に出ている、と自分は読みました。
見抜くポイントは、3つだけにしました
たくさん覚えても、焦っているときは思い出せません。自分は3つに絞っています。
1. 最初に、少額が本当に振り込まれます
国民生活センターが2026年5月19日に公表した、簡単なタスクで稼げるとうたう副業トラブルへの注意喚起があります。そこに載っている相談事例が、自分にはいちばん効きました。
SNSで「簡単に稼げる」という話を見て、メッセージアプリで事業者とつながる。動画を見て「いいね」をするといった作業を3件ほどやったら、報酬として2,500円が実際に振り込まれた、という流れです。
入金は、本物である証明にはなりません。ここが崩れると、あとの判断が全部ゆるみます。「お金が入ったのだから本当の仕事だろう」という納得が、いちばん先に来てしまうからです。逆に言えば、先に少額が入ってきたときこそ警戒する、という覚え方ができます。
2. 追加のお金の理由が「出金するため」
同じ資料には、作業を続けたいなら費用が必要だと言われて、約50万円を段階的に支払っていった事例が載っています。「利益が出たが、グループの連番でないと出金できない」といった説明で、追加を求められることもあるそうです。
自分の中の線引きはここです。出金するためにお金がいる、と言われた時点で止まる。 増やす話でも減らす話でもなく、手元の残高が減る方向に一歩でも動いたら、その日はもう返事をしない。
3. 相手の正体が最後まで分からない
事例に共通しているのは、最後まで相手が誰なのか分からないことです。やり取りはメッセージアプリの中だけ。会社名も、登録番号も出てこない。
まともな取引なら、名前を出さない理由がありません。名乗らないこと自体が情報だと思っています。
勘で判定しない。名前を調べる
自分が変えたのは、ここです。怪しいかどうかを、自分の感覚で判定しないことにしました。感覚は、疲れている日には効きません。代わりに、名前を調べます。
投資や資産運用の話が出てきたら、金融庁のページを見ます。免許・許可・登録等を受けている業者の一覧、無登録で金融商品取引業を行う者の名称、それから暗号資産交換業者の登録。この3つです。
- 金融庁「免許・許可・登録等を受けている業者一覧」 https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyo.html#kinyushohin
- 金融庁「無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について」 https://www.fsa.go.jp/ordinary/chuui/mutouroku.html
- 金融庁「暗号資産の利用者のみなさまへ」 https://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency/index.html
一覧に名前が見当たらないからといって、その相手が直ちに違法だと決めつけることはできません。そこまでは書けません。ただ、お金を預かって運用すると説明されているのに、そもそも会社名が出てこない、あるいは調べても何も出てこないのなら、いったん止まる理由には十分だと思っています。
調べる作業は5分で終わります。5分で終わることを、勘で代用しないという話です。
「副業」が「借金」にすり替わる形が増えています
もうひとつ、国民生活センターが2026年5月20日に公表した注意喚起があります。副業サポートなどの名目で、複数の貸金業者から次々と借入れをさせられるケースが目立つ、という内容です。
この資料は「特に20歳代以下といった若年層への注意が必要」と明記されていて、載っている事例の金額も450万円、100万円、150万円と、若い人の相談として整理されています。ですから、そのまま50代の話として引用するのは正確ではありません。
それでも紹介したのは、構造のほうは年代を問わないからです。先ほどの5月19日の資料にも、指示されて消費者金融4社から借入れをし、さらにその金を暗号資産に交換して送金するよう言われた事例が載っています。副業の話として始まったものが、終わってみると手元に残っているのは借金だけ、という形です。
ここは自分の経験と地続きなので、淡々と書きます。返済の予定を抱えている時期に「早く増える」話がどう見えるか、自分は知っています。増える可能性より、返済日までの日数のほうが先に頭に浮かびます。その状態のとき、借りて始めるという選択肢は、驚くほど自然な顔をして出てきます。
参考までに、相談の総数自体も増えています。2025年度に全国の消費生活センター等に寄せられた相談は100.6万件で、前年度の91.3万件から約9万件増えました。契約購入金額は平均88万円、実際に支払ってしまった金額は平均50万円です。
MLMだけの話では、もうありません
前回の記事は、ネットワークビジネスとEコマースを組み合わせた新興型の勧誘を軸に書きました。ただ、数字を見ると、そこだけを見ていては足りません。
国民生活センターに寄せられたマルチ取引の相談件数は、2023年が5,158件、2024年が4,132件、2025年が4,003件と、むしろ減っています。増えているのは、SNSの広告経由で入ってくる投資型・副業型のほうです。
だから自分は、MLMを看板にして書くのをやめました。数ある勧誘の1レーンとして、淡々と並べるほうが事実に合っています。見るべきなのは業態の名前ではなく、構造です。
SNS発の全部が問題なのではありません
ここは誤解されたくないので、はっきり書きます。SNS経由の副業やコミュニティが、すべて問題なのではありません。
自分自身、SNSで発信して、そこから仕事も学びも得ています。書くことを続けられているのも、読んでくれる人がいるからです。SNS発だから危ない、という線引きをしてしまうと、自分の足元まで否定することになりますし、何より事実として違います。
問題は媒体ではなく、構造です。先にこちらがお金を出さないと始まらない話かどうか。 自分が持っている線は、いまのところこの1本だけです。
自分の地味な数字を置いておきます
比較のために、自分の数字を出しておきます。
フードデリバリーはUberだけで、4年11か月、20,128件を配達しました。いまは1日3時間で、月に10万円前後です。コロナ禍で1日7時間走っていた時期は月25万円ほどでした。
もっと言うと、自分がいちばん信用しているのは、1件320円という数字のほうです。体調が良かろうが悪かろうが、1件配達すれば320円は確実に入ります。増えはしませんが、消えもしません。広告の中の金額と違って、こちらは自分で再現できます。
ただ、そこに留まるのも良くないと思っています。320円を積むだけのやり方は、体が動かなくなった日に終わります。だから並行して、こうしてSNSのことを調べたり、書いたものを残したりしています。確実に入る320円と、まだ結果の出ていない積み上げ。その2本立てが、いまの自分の答えです。
これが、50代の自分が体をひとつ使って稼いだ数字です。この数字を横に置くと、「スマホだけで月50万円」がどういう話なのかは、説明しなくても伝わると思います。誰かを説得するためではなく、自分の指を止めるために、この数字を覚えています。
配達の詳しい内訳は、フードデリバリーは「借金返済の副業」になるか──2万件配達して分かった正直な数字に書きました。
相談は、恥ではありません
もしすでに支払ってしまっていたり、契約してしまっていたりしても、なぜ気づかなかったのかと自分を責める必要はありません。国民生活センターも、先に報酬が振り込まれていたとしても消費生活センターに相談してほしい、と案内しています。相談は失敗の申告ではなく、手続きのひとつです。
相談先は2つだけ覚えておけば足ります。
- 消費者ホットライン 188(いやや)/お住まいの地域の消費生活センター等につながります
- 警察相談専用窓口 #9110
この記事では、これ以外の窓口や事業者は紹介しません。副業サービスも、投資スクールも、法律事務所も出しません。紹介料を受け取る先も、ひとつもありません。この記事に商用リンクが1本も無いことが、この記事の立ち位置です。
まとめ:見抜くのは能力ではなく、手順です
入口はDMから広告に変わりました。それでも、やることは増えていません。
最初に少額が振り込まれたら警戒する。出金するためにお金がいると言われたら止まる。相手の名前が出てこなければ、そこで終わりにする。そして、投資の話なら金融庁の一覧で名前を調べる。
自分がこの手順に頼っているのは、判断力に自信があるからではありません。逆です。焦っている時期の自分を信用していないからです。疲れている日でも同じ結論になるように、手順のほうに預けています。
見抜けるかどうかは、能力ではなく手順の問題です。前回の3つの基準と、今回の3つの合図。この6つを、財布の中のカードくらいの感覚で持っておけば足りると思っています。
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