【連載:ゼロから小説をKindle出版した全工程|第4回】
原稿は、書き上げた時点では完成していません。むしろそこからが本番です。個人出版には編集者がいないので、推敲も校正も自分でやるしかない。今回は、編集者のいない環境で、一人でどうやって原稿の質を上げていったか——その実践フローを紹介します。
「推敲」と「校正」を分けて考える

まず、二つを混同しないことが大事でした。同時にやろうとすると、どちらも中途半端になります。
- 推敲:内容そのものを直す。構成、展開のテンポ、表現、人物のブレ、伏線の整合性など”作品の質”の話。
- 校正:誤字脱字、表記ゆれ、句読点、文法ミスなど”間違い”を潰す話。
順番は必ず推敲が先、校正が後です。先に校正で文字を整えても、推敲で文章ごと書き直したら無駄になる。大きい直しから小さい直しへ、という流れを守りました。
推敲は「役割を変えて複数回読む」
一回の通読で全部直そうとすると、何を見ているのか自分でも分からなくなります。私は読むたびに「今日はこれだけを見る」と観点を一つに絞りました。
- 1周目:構成とテンポ——話の順番、各話の長さのバランス、中だるみしている箇所はないか。
- 2周目:人物のブレ——設計書と照らして、口調や行動が一貫しているか。前回紹介したキャラクター設計書が、ここで効きます。
- 3周目:伏線の整合性——配置図と照らして、仕込みと回収がずれていないか、張りっぱなしがないか。
- 4周目:表現——同じ言い回しの重複、冗長な文、もっと刺さる表現がないか。
観点を一つに絞ると、見落としが激減します。前の回で作った設計書や配置図が、推敲のチェックリストとしてそのまま使えるのも、設計に時間をかけた見返りでした。
「時間を空ける」が一番効く
地味ですが、最も効果が大きかったのが「時間を空けてから読み返す」ことでした。書いた直後は、頭の中に”書いたつもりの完璧な文章”が残っていて、実際の文と脳内が補完し合ってしまう。だから粗が見えません。
数日置いてから読むと、他人の文章のように読めて、粗が一気に見えるようになります。可能なら一週間。難しければ一晩でも、効果はあります。「書く日」と「直す日」を分ける——これだけで原稿の質が変わりました。
「音」で確認する
もう一つ効いたのが、文章を音で確認することです。黙読だと目が滑って気づけないリズムの悪さや、読点の位置の不自然さが、声に出す・読み上げさせると一発で分かります。
とくに会話文は、音で確認すると「この人、こんな言い方しないな」という違和感が拾えます。小説の文章は、黙読でも頭の中で”音”が鳴っているので、その音が整っているかどうかが読み心地を左右します。スマホの読み上げ機能を使うだけでも十分でした。
校正は「機械的に、観点を分けて」
推敲が終わったら校正です。ここは作品を”読む”のではなく、間違いを”探す”作業に頭を切り替えます。私が潰していった主な観点は次の通りです。
- 誤字脱字
- 表記ゆれ——「いう/言う」「とき/時」など、同じ語の表記を統一する
- 句読点——読点の打ちすぎ・打たなすぎ
- 固有名詞・数字の整合——人物名、年齢、設定の数字が全話で一致しているか
- 三点リーダーやダッシュの使い方——小説特有の記号の作法を揃える
表記ゆれと固有名詞の整合は、連作だと特にミスが出やすいところです。何ヶ月もかけて書くと、序盤と終盤で表記が変わってしまう。校正の段階で全話を通して一気にチェックすると、こうしたズレを拾えます。
完璧を目指して止まらない
最後に、これは姿勢の話ですが——個人出版では「完璧」を目指しすぎると、いつまでも出せません。推敲も校正も、突き詰めればキリがない。私は「これ以上は読者に伝わる差にならない」と感じたところで区切りをつけました。
前回までで触れた通り、私の一冊目のゴールは「工程を最後まで通すこと」でした。だから、無限に磨き続けるより、一定の質に達したら次の工程(出版)へ進むことを優先しました。出して、読まれて、はじめて分かることもある。完璧主義で机に縛られるより、一度世に出す方が学びは大きい、というのが実感です。
次回(第5回・最終回)は、いよいよ技術的な山場——仕上げた原稿を、Kindleで正しく読める形式に整える具体手順です。ナビゲーション可能な目次の作り方など、KDP入稿のために実際にやった作業を紹介します。
この連載で題材にしているのは、私が実際に出版した連作ミステリー『顔のない探偵へ──倉田修二の事件帖』です。ここで紹介した推敲・校正を経て仕上げた本編、よければ手に取ってみてください。


コメント