デモトレードでは、そこそこ勝てていました。ルールを決めて、そのとおりに入って、そのとおりに切る。画面の中では、自分はわりと冷静なトレーダーに見えていたんです。ところが本番に移したとたん、同じ相場、同じ手法なのに、まるで別人のように崩れました。
損切りの話は、以前に書きました。今日はそのもう一歩手前、「デモなら守れるのに、本番になると守れなくなる」という、あの気味の悪い差について書いてみます。手法を変えれば直る、という話ではないと自分は思っています。
手法は同じなのに、なぜ結果だけが変わるのか
まず正直に認めておくと、デモと本番で自分が使っていた手法は、ほとんど同じでした。エントリーの条件も、損切りの位置も、紙に書いたルールは変えていません。変わったのは、たった一つ。画面の向こうで動いているのが、練習用の数字なのか、自分の本物のお金なのか、という点だけです。
デモが「意味がない」とまでは思いません。操作に慣れる、相場の動きを見る目を養う、という点では役に立ちます。ただ、デモで勝てたことを「自分は勝てる」と読み替えてしまうと、そこに落とし穴があります。デモで測れているのは手順の正しさであって、お金が減っていく恐怖に自分がどう反応するか、ではないからです。専門的には、リスクにさらされていない状態と、実際に身銭を切る状態とでは、人の判断は別物になる、とよく言われます。要は「自分の身がかかっているかどうか」で、脳の働き方が変わってしまうということなんですよね。
自分が本番で崩れた、二つの形
自分の場合、崩れ方には決まったパターンがありました。
一つは、損切りができなくなることです。デモなら、決めた位置に来たら機械的に切れました。ところが本番では、いざその位置に近づくと、「もう少し待てば戻るかもしれない」という声が急に大きくなります。切れば、その損が確定してしまう。それが怖くて、切れずに持ち続けました。持ち続けるだけならまだしも、下がったところで「ここまで下がったなら」とナンピンで買い増しをして、傷を自分から広げていったこともあります。デモのときには一度も出なかった行動でした。含み損が100000円まで膨らんで、ようやく手が動いた、という日もありました。
もう一つは、逆の方向です。負けを取り返そうとして、ロットを上げてしまうことです。冷静なときには絶対にやらないサイズで、「これで一発当てれば戻る」とエントリーする。そして、たいていそういうときに限って逆に動く。一度で52330円を飛ばした、という記憶があります。これもデモでは出ませんでした。取り返したい金額が本物でなければ、そもそも取り返そうという焦りが湧かないからです。
塩漬けとナンピン、そしてロットの引き上げ。どちらも共通しているのは、お金が本物になった瞬間に、守るはずのルールより「今のこの痛みをなんとかしたい」という気持ちが前に出た、ということでした。
配達の「頭の中の計算」と、同じ構造だった
これはFXだけの話ではないな、と気づいたのは、副業のフードデリバリーを走っているときでした。
配達を始める前、家でシミュレーションをしていると、頭の中ではいくらでも効率よく回れます。この時間にこのエリアにいれば、これくらいは積める。数字の上では、きれいなプランが描けるんです。ところが実際に外に出ると、雨が降り、鳴らない時間が続き、待たされ、体は疲れてくる。すると、頭の中の計画では「ここは動かず待つ」と決めていたはずなのに、鳴らない不安に負けて、ムダに移動してしまう。プラン通りに動けないんです。
これはデモと本番の関係と、まるきり同じ構造でした。計画の上では正しく動けるのに、自分の時間と体と収入が実際にかかった瞬間、判断が計画から離れていく。相場でお金がかかると損切りができなくなるのと、配達で収入がかかると待てなくなるのは、たぶん同じ心の癖から出ています。逆に言えば、この癖は相場を辞めても消えるものではなくて、自分の生活のいろんな場面に顔を出しているんですよね。
「本番で崩れる自分」を前提に組み直す
では、どうすればいいのか。ここで「メンタルを強くすれば直る」と書きたくなるのですが、自分はそうは思わなくなりました。恐怖や焦りは、身銭を切っている限り消えません。消せないものを消そうとするから、かえって振り回されます。
代わりに自分がやっているのは、崩れる自分を前提にして、崩れても大怪我しない形に先に組んでおくことです。具体的には、本番のロットをデモのときよりずっと小さくして、恐怖のスイッチが入りにくい金額から始めること。損切りは、その位置に来てから考えるのではなく、注文と同時に置いてしまって、後から自分の意思で外せないようにしておくこと。負けが続いた日は、取り返そうとする前に画面を閉じること。どれも派手さはありませんが、「本番の自分は崩れる」という前提に立つと、こういう地味な仕掛けのほうが効きます。
デモで勝てたのに本番で勝てないのは、たぶん才能や手法の問題ではありません。身銭がかかると人は変わる、という当たり前のことに、自分の設計が追いついていなかっただけなのだと思います。まだ途中の話です。本番で崩れた生々しい記録のほうは、noteに残しています。
参考
・FX初心者入門ナビ「FXのデモで勝ってもリアル口座では勝つことが出来ない理由とは?」
https://www.ace-sec.co.jp/fx/beginners-guide/1692
・Fintokei「デモトレードは意味ないのか?本番で勝てない原因や取り組むコツを紹介」
https://www.fintokei.com/jp/blog/demo-trading-meaningless/
・ナシーム・ニコラス・タレブ『身銭を切れ――「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質』(ダイヤモンド社、2019年)
https://www.diamond.co.jp/book/9784478103814.html

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