損切りした瞬間に戻っていく──「往復ビンタ」が怖くて切れなくなる人へ

FXメンタル・スキル

損切りした直後に価格が戻っていくのを見ると、次から切るのが怖くなります。

これは意志が弱いからではありません。切った後の「もし持っていたら」が画面に出続ける構造になっているからです。自分は8月4日に、微益で降りた9分後に買い直して損切り、その9分後にドテンして、また損切りしました。2本合わせて7,322円。痛かったのは金額ではなく、そのあと自分の損切りが遠くなっていったことのほうでした。

切った9分後に、また入っている自分

 

8月4日の夕方の話です。

ゴールドを0.02ロットで買って、17時22分に9.4pips、297円の微益で降りました。逆指値を建値の上に引き上げて、機械的に撤退したので、この判断自体は自分のルールどおりです。

問題はそのあとでした。降りたあとも価格は上に行きました。自分は9分後の17時31分に、同じ方向へもう一度買っています。そして18時07分に122.7pips、3,875円の損切り。その9分後の18時16分に、今度は反対方向へ売りました。20時30分、109.3pips、3,447円の損切り。

上で切られて、下で切られて、2本で7,322円です。いわゆる往復ビンタでした。

その日の自分の記録には、冷静度4点、引き金は「微益撤退の物足りなさ」と書いてあります。取り戻したい気持ちがあったか、という欄には「あり」と書いています。ただ、いま読み返すと、あれはお金を取り戻したかったのとは少し違いました。もっと獲れたはずだ、という後悔のほうが先にありました。

ちなみに、これでもマシなほうです。8月3日は、損切りが約定した23秒後に反対方向へ入っています。23秒で相場を見直すのは物理的に無理なので、あれは判断ではなく反射でした。

後悔は「もし持っていたら」から生まれます

後悔という感情は、実際に起きた結果と、別の選択をしていたら得られたはずの結果を比べたときに生まれる、と説明されています。反実仮想と呼ばれる考え方です。

ここで大事なのは、比べる相手が見えなければ後悔は生まれない、ということです。

たとえば自転車をこいでいて、右の道を選んだとします。左の道が空いていたかどうかは分かりません。分からないから、後悔のしようがありません。

投資の世界でも、売る場面での後悔を避けたい気持ちが損切りの失敗につながり、買う場面での後悔を避けたい気持ちがいわゆるFOMOにつながる、という整理をよく見かけます。売った瞬間に「持っていたらどうだったか」が確定してしまうから、切れない。理屈としては分かりやすい話です。

チャートは、後悔が生まれるようにできています

ここからが、自分がいちばん書きたかったところです。

株を売ったあと、その銘柄の値動きを毎分見続ける人は、そんなに多くないと思います。画面を閉じれば終わります。

FXは違います。切ったあとも、同じ通貨ペアの続きが目の前で動き続けます。しかも24時間です。つまり「もし持っていたら」の答えが、切った瞬間から一秒も止まらずに表示され続けます。

自分たちが毎日見ている画面は、後悔がいちばん生まれやすい形で作られている、ということです。

「自分の損切りだけ狙われている気がする」と感じる人は多いと思います。自分もそう思ってきました。この感覚を、気のせいですと切り捨てるつもりはありません。かといって、誰かに狙われているという話にするつもりもありません。そう感じてしまう構造が、画面の側にある。それだけは言えると思っています。

後悔は気分ではなく、次の判断の設定を書き換えます

もう少し踏み込んだ研究があります。

FrydmanとCamererが2016年に発表した論文で、実験的な株式市場を使って、参加者の脳の活動を測ったものです。買わなかった銘柄が値上がりするのを見たとき、報酬にかかわる部分に後悔の信号が観測された、と報告されています。

そして重要なのはそのあとです。その信号が強く出た人ほど、次に同じ銘柄を買い直すべき場面で買い直せなくなっていた、という結果が出ています。さらに、その人たちは利益を早く確定して損失を抱え続ける傾向も強かった、とされています。

これは株式を模した実験市場での話で、FXで検証されたものではありません。だから断定はできません。ただ、近い現象が報告されているとは言えると思います。

自分がこの話を知って少し楽になったのは、後悔がその場の気分では終わらないらしい、という点です。一回の往復ビンタは、その日の7,322円で終わりません。次の損切りボタンを、少しだけ重くしていきます。気合いが足りないからではなく、そういう仕組みらしい、ということです。

往復ビンタの本当のコストは、そのあと切るのが遅くなること

8月10日の記録を並べます。

この日は12回やって1勝11敗、68,125円のマイナスでした。残高は116,637円から48,512円になっています。書いていて手が止まりました。

中でも痛かったのは、ゴールドを普段の5倍の0.1ロットで持った1本です。3本まとめて損切りになった17秒後に入れた注文でした。そこから4時間34分持って、220pips走られて、34,964円の損切りです。

自分のルールは、損切り幅は35〜50pips以内、証拠金の6%以内と決めてあります。220pipsは、そのルールの4倍を超えています。

8月4日の往復ビンタは、2本とも122.7pipsと109.3pipsで、証拠金比では1回4.2%。ルールの中に収まっていました。そこから6日後には、220pipsまで伸びています。

この2つに因果関係があると証明はできません。自分にできるのは、順番を書き出すことだけです。きれいに切れていた人間が、切れなくなっていく順番が、自分の記録に残っていました。

計算できるのは、往復ビンタ2本分の7,322円のほうです。計算しづらいのは、そのあと「切るのが怖い」状態で持ち続けて作った34,964円のほうです。往復ビンタが痛いのは、その日の2本ではなくて、こっちだと思っています。

「30分待つ」は、自分には効きませんでした

正直に書きます。

8月3日の23秒ドテンのあと、自分はその日の記録にこう書きました。損切りの直後30分は新規エントリーを禁止する、決済したらタイマーを30分かける、と。

翌日の8月4日、9分後に入り直しています。

その8月4日の夜、今度はこう書きました。逆指値が約定したらその場でMT5を閉じる、再オープンは60分後、スマホのタイマーをかける、と。

そして8月10日、17秒でした。

ルールを決めるだけでは効かない、というのがこの3回で分かったことです。「30分待つ」も「60分待つ」も、結局は目の前に画面がある状態で我慢しろと自分に言っているだけでした。50代になって分かったのは、自分の意志は、そういう使い方に耐えられないということです。

体のほうでも同じ失敗をしています。今年の1月、心臓に問題が見つかるまで、自分は気合いで乗り切ろうとしていました。結果は、身体に止められました。気合いで管理しようとしたものは、だいたい管理できていません。

効いたのは、我慢ではなく置き場所を変える1行でした

自分を変えたのは、努力でも根性でもなくて、たった1行のルールでした。

FXでいちばん効いたのは「17時以降はMT5を閉じる」です。これを入れた週、それまで夕方以降に垂れ流していた事故のようなトレードが1件も起きなくなり、5営業日すべてプラスで終わりました。手法は何も変えていません。

損切りのあとについても、同じ形にしています。逆指値が約定したら、その場でMT5を閉じて、配達に出ます。我慢するのではなく、見えない状態を先に作ってしまうという考え方です。

この違いは、自分の中では大きいです。「見ないようにしよう」は意志の話なので、負けている日の自分には通用しません。「アプリを閉じて外に出る」は場所の話なので、意志が弱っていても実行できます。

やってみた実感として、外に出てしまえば、5分もすると考えるのは次の配達先のことに変わります。表札の見つからない家に置き配指定が入っていたりすると、それどころではありません。戻ってくる頃には、さっきの1本のことはだいぶ薄くなっています。

8月7日には、損切りから次のエントリーまで3時間13分空けられました。23秒から3時間13分です。数字としては、そこだけ確実に良くなっています。

【ここに追記:8月7日に3時間13分空けられた日、その3時間で実際に何をしていたか(配達に出た/記録を書いた/端末を置いた、など)】

現場でよく言われている対策も、いくつか知っています。ドテンは1日1回までにする、同じ通貨ペアで入り直さない、といった話です。どれも自分の記録と照らして納得はしますが、根拠のある研究というより現場の知恵として読んでいます。使うなら、これも「我慢するルール」ではなく「そもそも入れない状態を作るルール」に翻訳したほうが、自分には合っていました。

正直に言えば、いまでも戻っていくチャートを見ると、何か言いたくなります。解決した話として書くつもりはありません。

戻っていくチャートは、自分に向けられたものではありません

損切りした直後に価格が戻るのは、たぶんこれからも起きます。

そのときに自分が思い出したいのは、それが自分を狙ったものではないということと、そこで感じる後悔は、次の1本の判断を静かに書き換えていくということです。だから見ない。見ないために、我慢するのではなく、その場を離れる。

自分がやっているのは、今のところそれだけです。

このブログは、誰かに読ませるために書き始めたものではありませんでした。ただ、悩み切った人がひとりでもいる限りは続けようと思っています。その「ひとり」は、たぶん自分自身のことでもあります。

同じところでつまずいている人がいたら、noteのほうもフォローしてもらえるとうれしいです。毎日の記録は、そちらに全部そのまま置いています。

参考

Frydman & Camerer (2016)「Neural Evidence of Regret and Its Implications for Investor Behavior」(The Review of Financial Studies)
https://academic.oup.com/rfs/article-abstract/29/11/3108/2583663

「THE REGRET AVERSION AS AN INVESTOR BIAS」(ResearchGate)
https://www.researchgate.net/publication/312525979_THE_REGRET_AVERSION_AS_AN_INVESTOR_BIAS

「Regret Aversion: Fighting the FOMO of the Financial World」(Duncan Group)
https://duncangrp.com/regret-aversion-fighting-the-fomo-of-the-financial-world/

「A model of regret, investor behavior, and market turbulence」(ScienceDirect)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022053115001696

※ Frydman & Camerer は株式を模した実験市場での研究で、FXでの検証ではありません。本文でもその旨を明記しています。

※ 現場の対策(ドテンは1日1回まで/同じ通貨ペアで入り直さない/画面から離れる)は個人ブログ・noteの記述を参照しました。根拠としてではなく「現場ではこう言われている」という位置づけで、数字は引用していません。

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