含み益が乗ると、指が勝手に動いて決済してしまう。これは臆病だからではありません。
含み益は、乗った瞬間に頭の中で「自分のもの」になります。だから、そこから1pip減るのは「利益が減った」ではなく「損をした」として計算され始めます。恐怖の対象が、損失から利益に移っているだけです。
自分の取引履歴を1週間分そのまま数え直したら、自分で置いた利確ラインの、平均46.0%の地点で降りていました。半分にも届いていません。しかもその線を引いたのは、他の誰でもなく自分です。
自分で置いたゴールの、半分手前で降りていました

8月3日から7日までの1週間を、MT5の取引履歴で数え直しました。
28回入って15勝13敗、損益は+7,253円。数字だけ見れば、勝ち越して終わった普通の週です。
このうち、勝って終わった15本のなかで、事前に利確ラインを置いていたのは13本ありました。そのうち、利確ラインまで価格が届いて自動で決済されたのは6本だけです。残りの7本は、届く前に決済されています。
その7本が、目標までの距離のどこで降りていたかを計算しました。平均46.0%でした。いちばん早いものは、目標までの距離の0.9%地点です。ほとんど建値と変わりません。
ゴールドだけで抜き出すと、勝ったときの平均が96.4pips(9本)、負けたときの平均が144.8pips(12本)。円に直すと、平均利益が6,786円で、平均損失が7,272円です。
勝率で言えば53.6%で勝っています。それなのに残高がほとんど増えないのは、この2つの数字の差が理由です。
「臆病だから」ではありません
このことを、自分は長いあいだ性格の問題だと思っていました。気が小さいから、肝が据わっていないから、と。
そういう話ではないようです。
人は損得を、自分の全財産で判断していません。「いまここ」を基準にして、そこから増えたか減ったかで判断しています。含み益が乗った瞬間、その基準が動きます。エントリーした価格ではなく、いま画面に出ている含み益のほうが基準になる。
すると、そこから価格が戻るのは「利益が減った」ではなく「損した」になります。損を避けたい力が、利益の側で作動しているわけです。臆病さの話ではなく、基準がずれる話でした。
これは測定されています。1998年にオディーンという研究者が、大手ディスカウント証券の1万口座・162,948件の取引記録(1987年1月〜1993年12月)を分析しました。
含み益が実現された割合が0.148、含み損が実現された割合が0.098。勝ち玉のほうが、1.5倍ほど早く手放されていました。
さらにこの論文には、もう一段きつい結果が書いてあります。売られた勝ち玉のその後1年の超過リターンは、持ち続けられた負け玉より3.4%高かった。つまり、売る側と持つ側を逆にしていたことになります。
40年近く前の、アメリカの、株式の話です。そのままFXに当てはめるつもりはありません。ただ、1万口座で観測される標準的な行動だということは言えます。自分だけが弱いわけではなかった、というところから始められます。
もうひとつ、「勝ちで終わらせたい」という力
恐怖だけでは説明が足りません。
含み益そのものではなく、利益を確定した瞬間に人は満足を得ている、という考え方があります。バーベリスとションが「実現効用」と呼んでいるものです。売って初めて「勝った一件」という記憶が作られる、という説明です。この考え方では、含み益が大きくなるほど売る確率が上がります。
自分の記録に、そのままの場面が残っていました。
7月31日、ゴールドを2本やりました。2本目は、目標圏まで来たところをちょうどリアルタイムで見ていて、そこで手で確定させています。理由として自分が書いていた言葉は、この3つでした。
戻されるのが嫌だった。せっかく午前中も勝っていた。もうこれで今月のトレードは終わりにしよう。
記録の検証欄には、コーチ役から一文が返っていました。この3つは、いずれも相場の根拠ではありません、と。含み益を減らしたくない、その日の勝ちを守りたい、月末だから畳みたい。全部、相場ではなく自分の口座の都合です。
そしてこう続いていました。チキン利食いは、根拠のない利確が習慣化したときの名前です、と。
これが自分にはいちばん効きました。早く降りること自体が悪いのではありません。悪いのは、降りる理由が相場の側になくなることです。負けが込んでいる時期ほど、この「一件でいいから勝ちで終えたい」は強くなります。
ドル円で強まる、という報告
2025年に、こういう研究が出ています。
126カ国・4,226人の個人トレーダーによる、100万件を超えるFXの実取引を分析したものです。結論は、自国通貨が絡む取引では、利益をより早く確定し、損失をより長く抱える傾向が強まる、というものでした。
そして、この傾向は年齢が高い層と、残高の大きい口座で特に強く出たと書かれています。
50代の日本人がドル円を触る、というのは、この記述のほぼ真ん中です。馴染みのある通貨だから安心して見ていられる、その安心が早い決済を作っている、という話になります。直感とは逆です。
ただし、これは相関の報告であって、因果を断定した研究ではありません。そのうえで、正直に書いておきたいことがあります。
自分の記録では、そうなっていませんでした。
途中で降りた7本の内訳を見ると、5本がゴールドです。ドル円は2本とも、置いた利確ラインまできちんと持てていました。自分の場合、手が動くのは馴染みのある通貨ではなく、値動きの速い銘柄のほうでした。
たった1週間、28本のデータなので、これで研究を否定するつもりは全くありません。ただ、自分に当てはまらなかったものを、当てはまったふりをして書くわけにはいきません。ドル円で早く降りてしまう自覚がある人には効く話だと思いますし、自分のようにそうでない人もいる、というだけの話です。
原因は手法ではなく、見ている回数かもしれません
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。
1997年に、セイラーとカーネマンたちが行った実験があります。参加者を、投資結果のフィードバックを受け取る頻度でグループ分けしたものです。
結果は、最も頻繁に結果を確認したグループが、最もリスクを取れず、最も利益が少なかった、というものでした。
仕組みとしては、こういうことになります。損に敏感な人が、評価の回数を増やす。すると、含み益の一つひとつの上下動が「減った」という損失として計算されます。1日に1回見れば1回しか痛みませんが、5分おきに見れば、その回数だけ痛みます。耐えられなくなるのは当たり前です。
これが本当なら、対策は「我慢する」ではありません。見る回数を減らすという、環境の話になります。
自分の記録に、それを裏づける一件があります。
8月5日、ドル円を2本やって+13,498円でした。この2本は、事前に入れておいた利確の指値が、そのまま約定していました。
面白いのはここからです。自分はその日の記録を書いている最中まで、この2本を自分の手で決済したと記憶していました。ログを見て、触っていなかったことに気づきました。
見ていない時間に置いた注文が、いちばんきれいに仕事をしていました。そして自分は、その手柄まで自分のものだと思い込んでいました。
効かなかった対策も、書いておきます
「見ないようにする」で解決した、という話にはなりません。
7月に自分が入れた1行は「17時以降はMT5を閉じる」でした。この1行を入れた週、それまで夕方以降に垂れ流していた事故のようなトレードが1件も起きなくなり、5営業日すべてプラスで終わりました。手法は何も変えていません。
そして8月6日に、このルールを自分で撤廃しました。
8月のデータを取り直したら、17時以降が+38,682円、17時前が-31,429円だったからです。7月に立てた仮説は、8月の数字にはっきり否定されました。ルールが正しかったのではなく、その週にたまたま合っていただけでした。
もう一つ失敗しています。ルールを増やしすぎました。
8月10日から14日にかけて、自分が毎日書いていた「本日の封じ込め宣言」は、5日間で27本ありました。同時保有は2本までと書いた翌日に3本持ち、合算はリスクの6%以内と書いた翌日に13.1%まで積んでいます。
ルールは、足すほど効かなくなります。27本のルールは、0本と大差ありません。
早く降りて正解だった日も、ちゃんとあります
ここを書かないと、この記事は「伸ばせば勝てる」という話になってしまいます。そうではありません。
8月7日、ポンドドルを1.34446で手で決済しました。置いていた利確ラインは1.34435で、あと1.1pipsのところでした。そのとき自分が思ったのは「もうちょっと取れたな」です。
チャートを見返して、背筋が伸びました。降りた直後に、価格は急騰しています。粘っていたら、あの含み益は消えていました。「もう少し取れた」という感想のほうが、事実と食い違っていたわけです。
8月14日のドル円もそうでした。3時間持って、ほぼ建値で降ろしています。その25分後に、より有利な価格から入り直して+1,615円になりました。降りていなければ、3時間の往復に付き合ったまま同じ場所に戻っていただけです。
一方で、同じ日のゴールドでは逆が起きています。利確ラインを335pips先に置いたまま、移動平均のルールで10時に降りました。その後ゴールドは4,313付近まで落ちています。利確ラインには、届いていました。差は1本あたり218.8pips、2本で約7,000円です。
同じ1日の中で、同じルールが、片方では利益を削り、片方では立て直しを作りました。1日のデータで、どちらが正しいとは決められません。
「伸ばせば勝てる」とは書きません
損切り幅を変えないまま利確だけ伸ばせば、勝率は落ちます。ここには必ず交換条件があります。
それに、自分の問題は利益の側だけではありません。
8月10日の記録を見ると、その日の最大の勝ちが793円で、最大の負けが34,964円でした。44倍です。この比率のままなら、勝ち逃げがどれだけ上手くなっても数字は積み上がりません。
自分ルールの第5条は「利益は伸ばすものではなく逃げるもの」です。この条文を変えるつもりはありません。兼業で、日中は配達に出ている人間が、含み益を抱えたままチャートを見張るのは無理だからです。
変えるべきは条文ではなく、逃げる場所を先に決めているかどうかでした。決めた場所で逃げるのと、怖くなって逃げるのは、その日の結果が同じでも、まったく別のものです。前者は再現できますが、後者は再現できません。
直らなくても、減らせます
処分効果は、経験を重ねた投資家ほど弱くなると報告されています。経験の非常に多い層ではほとんど見られない、とする研究もあります。
ただ、これを「続ければ勝てる」と読むのは危ないと思っています。自分は3年以上やっていて、いまだに直っていません。効いてくるのは、たぶん取引した回数ではなく、記録して見返した回数のほうです。
正直に書きます。いまでも、含み益が減り始めると落ち着きません。
8月17日の朝、ゴールドを17分持って121.4pips、3,862円で降りました。あれは決めた場所でした。ちゃんとできた日です。そしてその日の夜、8回入って1勝7敗、-22,613円で、残高は48,060円から25,447円になっています。朝で店じまいしていれば、プラスで終わっていた日でした。
解決した話として書くつもりはありません。
自分がやったのは、決済するたびに理由を「利確」「損切り」「ルール」「裁量」の4語のどれかで書き残す、それだけです。1か月ためて数えるまでは、自分がどこで降りているかを、自分でまったく把握していませんでした。
46.0%という数字が出たのは、我慢したからではありません。数えたからです。
チャートの前で気合いを入れ直す必要はなかった、というのが、いまのところの結論です。
同じところでつまずいている人がいたら、noteのほうもフォローしてもらえるとうれしいです。毎日の記録は、そちらに全部そのまま置いています。


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