50代で学び直しが続かないのは、意志が弱いからではありません。選び方が足し算になっているからです。
自分がこれまでに手を出して消えたものと、いまも続いているものを並べ直してみました。分かれ目は「やる気」でも「役に立ちそうか」でもありませんでした。新しい時間を作らないと成立しないものは、全部消えていました。
だから、いま自分が使っている基準はこれ1行です。すでにやっている動作の隣に置けるか。置けないなら、それは今の自分には残せません。
70.1%と14.4%のあいだにいます
パーソル総合研究所と産業能率大学の齊藤研究室が2023年に行った調査があります。全国の就業者を対象にしたもので、本調査で9,000人分のデータです。
「何歳になっても学び続ける必要がある時代だ」に肯定した人が70.1%。それに対して、実際に学び直しをしている「学び直し層」は14.4%でした。
意欲がない世代の話ではありません。必要だと分かっている人が7割いて、動けている人が1割台という話です。自分もこの差の中に、長いあいだ立っていました。
同じ調査には、もう一つ気になる数字があります。「仕事のことは、仕事の中で学ぶのが一番」に肯定した人も、偶然ですが同じ70.1%でした。数字の打ち間違いではありません。学ばなければと思いながら、学ぶ場所は仕事の中だと思っている。この2つが同じ人の中に同居しているのだとしたら、外に一歩出る学びが始まらないのは自然な気もします。
環境の話も少しだけ。同じパーソル総合研究所が2022年に18の国と地域で行った調査では、勤務先以外での学習や自己啓発について「とくに何も行っていない」と答えた人の割合が、全体平均18.0%に対して日本は52.6%で最も高くなっています。2019年にAPAC14の国・地域で行われた調査でも、日本は46.3%で最高でした。
調査の年も対象国数も違うので、46.3%から52.6%に増えた、という読み方はできません。ただ、どちらの年も日本が一番だったということは言えます。
あなたが特別に意志の弱い人間だから続かないわけではない、というところからしか、この話は始められません。
消えていったものを、正直に並べます

自分が手を出して消したものを、思い出せる範囲で書きます。
50代になってから、動画で英語の勉強を始めました。経営が行き詰まって、頭の中がお金のことでいっぱいになっていた時期です。続きませんでした。
副業も同じです。「儲かりそうか」で選んでは、3日か、長くて2週間でフェードアウトする。これを何度も繰り返しました。副業の種類を40個並べた記事を自分で書いていて、その中で自分に残っているものが数えるほどしかないと気づいたときは、正直に言って少し怖くなりました。
タスク管理のアプリも、昔いちど挫折しています。表計算ソフトで9マスの日記をつけていた時期もありましたが、そのファイルを保存していたUSBメモリごと無くしました。バックアップという発想が、そのときの自分にはありませんでした。気づいたときは、しばらく呆然としました。
売上の管理を表計算ソフトでやろうとして、何度も続かなかったこともあります。
1年半前には、いまとは別のペンネームで「家族時間が増える」といった趣旨のブログを書いていました。毎日更新のノルマに追われて、キーワードを並べてAIに吐き出させていた記事です。先日読み返して、声が出ました。きつい。あまりにもきつい。そりゃキモいわけだ、と一人で納得しました。
こうして並べると、自分がいかに「新しいことを足す」だけを繰り返してきたかが分かります。
残っているものは、地味なものばかりです
一方で、続いているものもあります。
副業のフードデリバリーは4年11か月になりました。いま主に使っているサービス1社分だけで、累計20,128件です。FXは2022年3月28日に始めて、いまも続けています。ブログはほぼ毎日書いています。朝の血圧は、7月23日から8月20日までの期間で77回測っていました。
朝に飲むものも定着しました。湯を沸かしたらバタフライピーを入れる。玉ねぎを蒸したら真昆布の粉末をかける。新しい習慣を足すと自分の場合はたいてい2週間で消えるのに、この2つは消えませんでした。
派手なものが1つもありません。資格でもスクールでもない。続いたものほど地味で、消えたものほど立派に見えた、というのが正直なところです。
正確に書いておくと、FXは「始めたのが2022年3月」であって、記録をきちんと残すようになったのは1年ほど前からです。それまでは早く習得したいという気持ちばかりが先行して、検証も振り返りもできていませんでした。続いていたのは取引のほうで、記録のほうは後から足したものです。ここを混ぜると、自分の話が実際より立派になります。
分かれ目は、意欲ではありませんでした
なぜこの差が出たのかを考えていて、ひとつだけ共通点が見つかりました。
残ったものは、全部「すでにやっている動作の隣」にありました。
朝起きるという動作はもともとある。その隣に「測る」を1つくっつけただけです。湯を沸かすのも、玉ねぎを蒸すのも、もともとやっている。その隣に置いただけです。配達は生活の一部で、記録はブログを書く動作とつながっています。
どれも新しい時間を作っていません。
消えたもののほうを見ると、逆でした。英語の動画も、9マスの日記も、それ用の時間をどこかに作らないと成立しません。売上の管理も同じで、表計算ソフトを開くという工程が1つ増えるだけで、自分は続けられませんでした。
そして50代の自分には、その新しい時間がありませんでした。作ろうとするたびに、体か仕事か資金繰りのどれかに持っていかれました。
判断する余地をなくしてしまえば、意志の弱さが入り込む隙間がなくなります。逆に言えば、判断が必要な場所に置いたものは、判断に負けて消えます。
50代になって痛感しているのは、意志の力で自分を変えるのはもう無理だということです。
学び直しは、足し算ではなく置き換えでした
この考え方には、ちゃんと名前がついていました。アンラーニングです。
経営学の松尾睦さんは、これを「学びほぐし」と説明しています。「学習棄却」という訳もあるけれど、評論家の鶴見俊輔さんは「学びほぐし」と訳した、と。硬直した知識やスキルをほぐして、要らないパーツは捨てて、新しいパーツを仕入れて組み替えていく。それがアンラーニングだ、という説明です。
自分が長いあいだやっていたのは、この逆でした。古いパーツを1つも外さずに、新しいパーツだけを買い足していたわけです。組み上がるはずがありません。
ベテランほど、過去の成功体験があるために手放しにくい、とも言われています。50代は、まさにその位置にいます。
3つの箱に分けてみました
抽象的な話にしても仕方がないので、自分が実際にやった分け方をそのまま書きます。捨てる、保留する、残す、の3つです。
捨てる箱に入れた基準は3つでした。
1つめは、新しい時間を作らないと成立しないもの。これが最優先です。理由は上に書いたとおりで、自分の場合はここで9割が決まりました。
2つめは、若い人と速さで競うもの。初見の情報を処理する速さや、丸暗記の量で勝負する領域です。ここは20歳前後をピークに下がっていく能力なので、50代が正面から戦う場所ではありません。
3つめは、3か月続かなかったのに、いまも「やる気が出ればいつか」と思っているもの。これがいちばん厄介でした。捨てていないという自覚すらないまま、頭の片隅を占領し続けます。「いつかやる」は、置き場所を決めていないだけです。
保留の箱には、いま判断できないものを入れました。時期が来れば残すかもしれないし、来なければそのまま消える。ここは無理に決めません。決めようとすると、結局また「やる気が出れば」に戻ります。
残す箱に入れたのは、いまやっている動作の隣に置けたものだけです。上に並べた地味なものが、そのまま入りました。
残す側にも、根拠らしきものはあります
捨てる話ばかりだと片手落ちなので、残す側の話も書きます。
知能には大きく2つの種類があるという整理があります。キャッテルとホーンという研究者が1960年代に示したもので、初見の問題を処理する速さや記憶にあたる流動性知能と、経験や語彙や判断にあたる結晶性知能です。
流動性知能は10代後半から20代前半でピークを迎えて、その後は下がっていく。一方で結晶性知能は20歳以降も上昇して、高齢になっても安定している、とされています。2004年に発表されたソルトハウスという研究者の横断研究では、結晶性知能の指標である「語彙」は60歳頃まで上昇し、その後もほとんど低下しないという結果が出ています。
正確に書いておくと、これは「結晶性知能が60代でピークを迎える」という話ではありません。60歳頃まで伸びて、その後は落ちない、という話です。しかも60歳という数字は結晶性知能全体ではなく、語彙という一つの指標についてのものです。
それでも、選び方の材料にはなります。速さで競う学びを捨てて、自分の経験に接続する学びを残す。50代がまだ伸ばせる側に賭ける、という話です。
以前、若い人にはもう勝てないと思った日のことを書きました。あれは、勝てないと認めるまでの話でした。今回は、認めたあとに手元に残ったものをどう選ぶか、という話です。
「捨てれば続く」とも書きません
ここで終わると、この記事は都合のいい話になります。そうではない例も書いておきます。
Kindleで小説を1冊出しました。2026年4月9日、94ページ、9話の連作短編です。
書く作業自体は、毎日ブログを書く動作の延長にありました。新しい時間はほとんど作っていません。この記事の基準で言えば、きれいに「残す箱」に入るはずのものです。
結果は、4か月強で販売0冊、既読0ページ、ロイヤリティ0円でした。売れた月が1か月もありません。表紙などの費用は持ち出しです。
続いたけれど、結果は出ませんでした。続くことと、結果が出ることは別です。
なぜ売れなかったかは自分なりに分かっています。中身の問題というより、どの棚に並ぶのか、どういう計算でお金が入るのか、出したあと何をするのか。この3つを1つも確認しないまま出版ボタンを押しました。学びの続け方の話と、その学びを何につなげるかの話は、別々に考える必要があります。
もうひとつ、失敗を書いておきます。基準は増やすと効かなくなります。
8月10日から14日にかけて、自分はFXで「今日はこれをやらない」という宣言を毎日書いていました。5日間で27本ありました。同時に持つのは2本までと書いた翌日に3本持ち、リスクは合計6%以内と書いた翌日に13.1%まで積んでいます。
27本のルールは、0本と大差ありませんでした。だから捨てる基準も、本当は3つでも多いのだと思います。使えるのは1つめだけかもしれません。
制度の話は、事実だけ書きます
学び直しにお金の心配がある人向けに、制度の話を一言だけ添えます。2026年8月時点の情報です。
雇用保険の教育訓練給付制度には、年齢の要件が設けられていません。支給対象者には65歳以上の高年齢被保険者も含まれています。受給の条件になるのは年齢ではなく、雇用保険の被保険者期間です。
給付率と上限額は、厚生労働省とハローワークの公式ページに次のように書かれています。一般教育訓練は20%で上限10万円。特定一般教育訓練は40%で上限20万円、資格を取って1年以内に雇用された場合は50%・上限25万円。専門実践教育訓練は6か月ごとに50%で年間上限40万円、条件を満たすと70%・年間56万円、さらに訓練後の賃金が5%以上上がった場合は80%・年間64万円で、通算では最大3年間192万円までとされています。追加給付の部分は、2024年10月1日以降に受講を開始した場合に限られます。
ひとつ注意点があります。専門実践を受講する失業中の人向けに「教育訓練支援給付金」という別の制度がありますが、これは基本手当日額の80%から60%へ引き下げられています(2025年4月1日以降に受講開始の場合。2026年度末までの暫定措置と記載されています)。しかもこちらは受講開始時に45歳未満という年齢要件があります。拡充された部分と、縮小された部分が同居しています。
制度の細かい要件は変わります。自分も、金額と条件はハローワークと厚生労働省の公式ページで確認したうえでこれを書いています。読むときも、そこを一度開いてもらったほうが確実です。特定のスクールや講座を勧めることは、この記事ではしません。
正直に書いておくと、自分はまだこの制度を使っていません。調べただけです。使った体験談は持っていないので、書けません。
まず、1つ捨てるところから
学び直しを始めようとして手が止まっている人に、新しく何かを足すことを勧めるつもりはありません。
自分の場合、動き出したのは足したときではなく、手放したときでした。頭の中で「いつかやる」のまま何年も置いていたものを、1つ「やらない」と決める。それだけで、いま続いているものに使える時間と気力が、少しだけ戻ってきました。
そのうえで新しく1つ入れるときは、すでにやっている動作の隣を探すようにしています。新しい時間を作る場所に置いた学びは、自分の場合は例外なく消えました。
解決した話として書くつもりはありません。いまも「あれをやっておけばよかった」という気持ちは残っていますし、消したもののうち何本かは、たぶん惜しかったのだと思います。それでも、全部を抱えたまま何も進まなかった数年間よりは、いまのほうがましです。
同じところで止まっている人がいたら、noteのほうもフォローしてもらえるとうれしいです。毎日の記録は、そちらに全部そのまま置いています。
参考
- パーソル総合研究所+産業能率大学 齊藤研究室「ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査」(2023年8月31日公開/調査実施2023年3月24〜28日、スクリーニングn=36,537・本調査n=9,000) プレスリリース https://rc.persol-group.co.jp/news/202308311000/ / 調査レポート https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/middle-senior-learning/
- パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」(2022年11月8日公開/18ヵ国・地域) https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/global-2022/
- パーソル総合研究所「APACの就業実態・成長意識調査」(2019年8月27日公開/14の国・地域) https://rc.persol-group.co.jp/news/201908270001/
- 松尾睦インタビュー「アンラーニングしなければ、人と組織は成長を続けられない」(パーソル総合研究所、2022年9月27日) https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/thinktank-column/i-202209270001/
- 松尾睦『仕事のアンラーニング 働き方を学びほぐす』(同文舘出版、2021年6月17日、ISBN 978-4-495-39047-1) https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784495390471
- 健康長寿ネット「高齢期における知能の加齢変化」(公益財団法人長寿科学振興財団/執筆:西田裕紀子・国立長寿医療研究センター、2016年11月4日公開・2024年8月14日更新) https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/koureisha-shinri/shinri-chinouhenka.html 原典:Horn & Cattell (1967), Acta Psychologica, 26, 107-129. / Salthouse, T.A. (2004), Current Directions in Psychological Science, 13, 140-144.
- 厚生労働省「教育訓練給付制度」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html
- ハローワークインターネットサービス「教育訓練給付制度」 https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_education.html
- 厚生労働省「令和6年10月からの教育訓練給付金の拡充」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000160564_00042.html
- 厚生労働省「教育訓練休暇給付金」(令和7年10月1日創設) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouhoken/kyukakyufukin.html


コメント